まどろみの中の山
梅雨……。
毎日毎日しとしとと、細い絹糸のような雨が降り続く。乾ききった町並みに、人の温もりと優しさに飢えた心の中にも、雨は降り潤いを与えてくれる。街路樹にも、小さな庭の花木にも、子供が遊ぶ校庭にも雨は満遍なく降りそそぎ、美しく全てのもの蘇る。
梅雨にお似合いなのは、やはり紫陽花。薄紫、青、白……。色々。雨にうたれ、移り気さながら、次々と美しい色に変わって行く。その様は、唯ひたすらに美しく咲き誇るのみ。
部屋の中でゴロゴロと寝そべり、雨音を聞きながら、庭の花を眺める時、心、次第に癒されて行く。雨だれが一つ落ちた。ほら、そしてまた一つ……。ゆっくりと時が流れる。大きな柱時計もゆっくりと一つ鳴った。静寂。何処かで猫が鳴いている。
まどろみの中をさまよえば、そこは静かな、緑滴る山の中。山紫陽花、水芭蕉、深山紫……。
木々の葉は露湛え飽く迄も緑濃く、沢は木洩れ陽を浴び、煌めいて漂い流れていることだろう。谷吹き渡る風どうか。落ち葉の敷き詰まった、まるで絨毯のような尾根道は、どうだろうか。何も彼もが、薄い布地に覆われたような世界だろうか。あれこれと思いは巡る、静かなこの午後。
美しい日本の自然、美しい日本の山。自然のもの達の息吹きと、その色の前で私達は、きっと立ち尽くす。その美しさにあっと瞳目する。単なる青や赤ではない。繊細で優しく、言い尽くせない程の美しい色達が、そこに在る。萌黄、浅黄、茜、唐紅、紺碧……。山は自然とともに四季折々、それらに彩られ、常に美しくそこに在る。懐深くそこに岐度在る。
梅雨は梅雨なり、文机に頬杖ついて、ひたすら物憂げに浸り、来し方を省みながらまどろむのも良し、薄水色の靄立ち込める瑞々しい山の中を、紫陽花色に染まりながら歩くのも、これまた良し。どちらも捨てがたい。
聞こえる? せせらぎ。
感じる? そよぎ。
染み入る? 木漏れ陽。
聞こえるよ。 沢の流れ。
感じるよ。 風の渡る音。
体に染みるよ。 木漏れ陽一杯。
伝わる? 僕の生きてきた道。
伝わるよ。 君の生き様。
ザックにつかまる君の手から、心から。
一緒に行くよ。並んで行くよ。
山の中へ。自然の中へ。
今日から私、君の心の杖になる。
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