『通勤電車内の珍事』 その1

   
 私鉄のK駅からJRのY駅まで、気力、体力共に押され押されて10数年間、雨にも負けず、風にも負けず通勤してきました。
 他人同士が集まるこの狭い空間に身を置いていれば、あなたも1つや2つ何かしらの出来事に遭遇したことがあるでしょう。
 でも、こんな経験ありますか。

 数年前、ホームに電車が入り、大勢の通勤、通学の人達が降りてきました。
 さあ、私も乗ろう。と思ったやさきのこと、女子高生があわてふためいて降りようとしました。
 が、その瞬間私の視界から彼女の姿が忽然と消えたのです。
 想像してみて下さい。さあ、どんなことが……。
 そう、ものの見事に彼女は、電車とホームの僅かな隙間にスッポリはまってしまったのです。
 見ると、手にはカバンがしっかり握られ、ホーム上にひれ伏した形で両手で体を支えていました。
 そして、なんと、豊かな胸もホーム上にありました。
  つまり両腕と大きな胸によって、転落しないで済んだ訳です。
 大きな胸もさることながら、もっと驚いたのはその両腕で力強くホーム上に這い上がった事です。
 びっくりしている私と数人の人達を尻目に、彼女は何事もなかったようホーム上に立ち上がり、
  スカートをパタパタとはたきながら、長い茶髪をヒラヒラさせて立ち去ったのでした。
 そして、駅員の手も煩わせる事無くこの珍事は終わりました。
 そして電車も何事もなかったかのように定刻どおり行ってしまいました。
 私と数人の人達を残したまま……。
 ああ呆然自失!!

 こんな事も。これが今日まで通勤して来た中での最大級の珍事。
 まさか、こんな事・・・・・でも本当の事です。
  私、目撃者。
 発車間際に飛び乗った中年の男性、肩から下げたショルダーバッグ。
  この男性、このショルダーバッグをおもむろに外し、網棚に載せようとしました。
  が、混雑甚だしく、網棚まで距離があったためか、バスケットのシュートよろしく網棚ヘ向かって放り上げたのです。
 しかし、大外れ。それは座席に座ってメガネをかけ、新聞を読んでいたおじさんの首にぶら下がってしまいました。
 見事!!
 新聞は大きく破け、メガネはずり落ち、髪の毛は乱れ、あー散々、惨めな姿に……。
 上目遣いに睨むおじさん、ひたすら謝るショルダー男。笑いをこらえる私を含めた周囲の乗客。
 この場合、なんとも恥ずかしいのは、メガネのおじさんであって、ショルダー男ではないのです。
  そして周囲の他人同士親近感を覚えたりするのです。そう思いませんか?
 それからどうなったか?これまた、何事もなかったかのように、ショルダー男はメガネのおじさんの首からバッグを外し、
  メガネのおじさんはメガネの位置を直し、髪の毛を整え、破けた新聞を広げ読み始めました。
 怒ることもしなかったメガネのおじさん。優しいと言うか、気弱と言うか……。
 それぞれの駅で降りて行きました。

 おしまい、また今度。

 残暑の火照り 残りし夕べ
 虫の声 近くなり遠くなる
 今日 白露なり